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東京高等裁判所 昭和37年(ラ)484号 決定 1962年12月27日

抗告人 塩原清

主文

原決定を取り消す。

抗告人を処罰しない。

手続費用は第一、二審を通じ国庫の負担とする。

理由

抗告人は原決定を取り消す旨の裁判を求め、その理由とするところは別紙抗告理由書記載のとおりである。

よつて案ずるに、本件記録によると原審認定のような抗告人の登記義務懈怠の事実を首肯しうるが、取寄にかかる被審人高畠佳次に対する横浜地方裁判所昭和三七年(ホ)第一二三号商法違反事件の記録によれば、抗告人と同じく株式会社大生相互銀行の代表取締役をしている高畠佳次は本件と同一の登記、すなわち昭和二六年八月一三日になされた右会社の株主総会の決議により存立時期の定めが廃止された旨の登記につきその申請を本件同様右会社支店所在地を管轄する浦和地方法務局本庄出張所になさずして懈怠し、昭和三七年五月一八日にいたつてはじめてその登記申請をなしたことを理由に、すでに昭和三七年六月六日横浜地方裁判所において過料五、〇〇〇円に処せられていることが認められる。およそ本件のような同一株式会社がなすべき同一登記所に対する同一登記の申請の懈怠につき、たとえすでに処罰された代表取締役と異なる代表取締役を対象とするものであるにせよ重ねてこれを処罰しなければならないものとは考えられないから、本件については抗告人を不処罰とするのを相当と考える。従つて、抗告人を処罰した原決定は失当といわざるをえず、本件抗告は理由がある。

よつて、原決定を取り消し、本件につき抗告人を処罰しないことにし、手続費用の負担について非訟事件手続法第二〇七条第五項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 谷本仙一郎 堀田繁勝 海老塚和衛)

別紙

抗告理由書

吾妻郡中之条町大字西中之条三〇九

抗告人 塩原清

右抗告人に対する貴庁昭和三十七年(ホ)第十一号商法違反事件について貴庁が同年七月三日なしたる決定に対しましては即時抗告致しましたが抗告の理由として左記の通り陳述致します。

一、私が代表取締役として就任している株式会社大生相互銀行が昭和二十六年八月十三日株主総会の決議により存立時期の定めを廃止した際、その登記を支店所在地を管轄する浦和地方法務局本庄出張所に同年九月三日迄に当時の代表取締役が登記申請すべきところ懈怠した為め私が昭和三十一年三月三十一日同銀行の代表取締役に就任し爾後引続き留任し現に代表取締役にある為めその責任を追及され柏木裁判官より過料金二千五百円に処する旨の決定を受けました。

二、当時の役員としては登記知識に暗かつた為めの全くの過失であることはその後の登記事項について一件の懈怠もなく今日に至つていることに徴しても明白であります。

三、登記面における会社存立の期限は本年九月三十日であり昭和二十六年八月十三日の株主総会において存立時期の定めを廃止した際、登記懈怠の事実があつても特に実害の発生ということはありません。

四、同行には代表取締役として他に取締役社長高畠佳次、常務取締役井原桜、内田義房、陶山重美の四人がおり内部的には夫々業務を分掌しておりますが商業登記を主管する秘書課は高畠社長が直接専管致しております。

五、高畠社長は横浜地裁民事第三部森裁判官より昭和三十七年(ホ)第百二十三号商法違反事件(本庄支店関係)につき過料金五千円に処する旨の決定を受けましたがその余の件については同一事案のものとして夫々不処罰とする旨の通知を受けました。

また他の代表取締役中、内田義房については浦和地裁熊谷支部から、陶山重美については東京地裁八王子支部から不処罰の通知を受け、井原桜については他の退職役員の件と共に前橋地裁において目下ご審理中であります。

六、以上により明白なるように本件は直接的には十年前における旧代表取締役の登記懈怠であること、実害の発生はないこと高畠社長が現職代表取締役の代表として本庄支店関係につき過料に処せられたこと、高畠社長のその余の事件及び他の代表取締役については不処罰になつていること等より勘案し同一事案のものとしてご処理されているにも拘らず、私に対しては個々の事件として処罰されることは公平の観念に反するよう思量されます。

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